「親分、間拔けな武家が來ましたよ」
縁側から八五郎の
梅二月も半ば過ぎ、よく晴れた暖かい日の晝近い時分でした。
「何んといふ口をきくんだ。路地の外へ筒拔けぢやないか、萬一その御武家の耳へ入つたら無事ぢや濟むめえ。無禮討にされても、文句の持つて行きどころはないぜ」
「だからあつしは武家が嫌ひさ。何んか氣に入らないことがあると、
八五郎はツイ自分の鼻を
「わかつたよ。誰もお前を武家に取立てるとも何んとも言はないから安心しろ――ところでその武家が一向姿を見せないぢやないか。どうしたんだ」
「もう來る時分ですよ。
「馬鹿野郎、丁寧にモノを言はれて何が
「道は大通りを教へましたがね、あつしは拔け裏傳ひに來たから、曲りくねつてもう二三度道を訊いてゐるうちに
「
八五郎は顏を引つ込めました。それと入れ違ひに、平次の女房のお靜に案内されて來たのは、五十年輩の恐ろしく尤もらしい武家でした。
「平次殿でござるか、拙者はお弓町の
などと開き直ります。いかにも着實さうで、
「これは/\、御挨拶で恐れ入ります。で私へ御用と仰つしやるのは?」
平次は
「他でもない、宇佐美家の
正木吾平は語り進みました。
宇佐美直記といふのは三千五百石の大身で、旗本とは言ひながら
所領は
「その上御孃樣のお信樣が、庭の向うから射た本矢に頬を縫はれて、大變な怪我をなさいました。殿には以つての外の御腹立ちで、曲者引つ捕へて成敗すると仰せられますが、その曲者の見當もつかず、こと/″\く閉口いたします。その上このまゝに差し置いて、自然公儀のお耳にも入ることになれば、宇佐美家への御とがめは
正木吾平は、膝の手を滑らして、平次に頼み込むのでした。
「それは御心配なことでございませう。が、御存じの通りあつしは町方の御用を承はる者で、御武家方――わけても御大家の内輪のことに立入るわけに參りません」
「いや、それもこと/″\く承知で、八丁堀與力筆頭笹野新三郎樣の
正木吾平は懷中から一通の手紙を取り出して、平次の膝元へ押しやるのです。
「親分、動きが取れませんね――引受けませうよ。宇佐美樣の御孃樣は、本郷一番と言はれた大したきりやうだ。その頬を本矢で射るやうな野郎は、フン
八五郎は障子を細目に開けて、縁側から餘計な口を出すのです。
「默つてゐろ、馬鹿野郎」
「――」
八五郎は龜の子のやうに頭を引つ込めました。が、かうして平次は思ひも寄らぬ事件――武家の内輪の、
お弓町の宇佐美直記の屋敷は、さして廣くはありませんが、なか/\に
内玄關から案内するのを、斷つて辭退した平次は、お勝手口から廻つて、先づ下女のお早、お小間使のお光、愛妾のお秋、若黨の金太郎などに會つたのは、飛んだ拾ひものだつたかも知れません。お早といふのは
若黨の金太郎は小氣味の良い男振りでした。色の淺黒い骨組の
こんなことで少し手間取つた平次は、用人の正木吾平にせき立てられて、奧の一と間――主人宇佐美直記の待ち構へてゐる一室に通されました。
「平次か、待つてゐたぞ。よく參つたな」
三千五百石の殿樣が、乘り出して手を取らぬばかりです。五十近い年配。運動不足と贅澤で、蒼白く肥つてをりますが、若い時分はさぞ美男でもあつたでせう。物言ひが少し
「飛んだことでございました。さぞ御心配なことで」
平次は敷居際に、
「娘の頬の傷は兎も角、御墨附が
「――」
平次は顏を擧げました。娘の頬の傷より、お墨附が大事だといふ、親の心が呑込めなかつたのです。
それは兎も角、宇佐美直記は、昨夜の一
宇佐美家の建築は、その頃の旗本屋敷の型通りで、かなり贅を盡したと言つても、天井が低く、廊下は狹く、決して宏莊なものではありませんが、お茶人だつた先代の設計で、庭造りはまことに見事なものでした。
その庭に散りかゝつた老梅が二三本。
ハツと物に驚いて宇佐美直記は顏を
「庭の方から、一本の矢が飛んで來たのぢや。私は幸ひ顏を反けたために、僅かのところで
直記は
それは少し虫が付いてをりますが、鷹の羽で
「この矢に見覺えがおありぢやございませんか」
平次はそれを丁寧に見ながら訊ねました。
「ない。――
「多分これは、どこかの
平次の指摘したのは飴色になつた
「いかにも」
「江戸中の
平次は次を
「屋敷中の騷ぎになつたが、丁度その時裏門から疾風の如く驅け出した者があつたといふことだ。門番の手落ちには違ひないが、外から入る者なら兎も角、門内から不意に飛び出すものは
「――」
「娘は早速自分の部屋に移し、一應の手當てをした上、若黨の金太郎を馳せて、三丁目の外科醫
「その時、お屋敷の中の人數は、揃つてゐたことでございませうな」
「それは間違ひない。
「で?」
「娘の傷の手當てが濟んで、この部屋へ歸つて見ると、部屋の中はひどい取亂しやうで、手箱の中に入れてあつた筈の御墨附が紛失してゐるのぢや――お墨附は不斷土藏の中の
宇佐美直記は、分別臭さをかなぐり捨てて、絶望的に
「このお縁側は、その時まで開いてゐたわけで――」
「左樣、何分の騷ぎに
「で、お心當りは?」
「大ありだよ、平次」
宇佐美直記は膝を進めました。
「これを何んと見る」
平次を庭へつれ出した宇佐美直記は、裏門寄りの塀の上に、惡魔の腕のやうに伸びた、
「?」
「松の枝は折れて、
直記の眼はキラリと光つて、その口邊には刻薄な冷笑が浮ぶのです。
「――」
「隣りは石山一馬殿の屋敷――先代からの不和だ。近頃その二男平馬殿を、宇佐美家の
奧齒に物の挾つた――どころか、これはヅケヅケと隣り屋敷の石山一馬父子を告發してをります。
平次は念入りに松の木を調べた上、裏門の門番の
「話にならないよ、平次親分。曲者といふ奴は、外からばかり來るものと思ひ込んでゐると、昨夜の奴は屋敷の中から飛び出すぢやないか、あつと言ふ間もありやしない。
門番彌市はいかにも
「
「いや、犬か人間のけぢめもはつきりしないくらゐだ。何んにもわかる道理はない。私は
「――」
「それからお孃樣を、御自分のお部屋に
門番彌市の話は相當要領を盡します。
平次はそこから小間使のお光の案内で娘お信の病間を見舞ひました。主人直記は勝手に屋敷の中を調べるやうに、そして誰にでも、遠慮をせずに物を訊ねるやうにと、平次自身にも屋敷中の者にも言ひ渡したのです。
娘お信の部屋といふのは丁度主人直記の部屋と背中合せになつた薄寒さうな北側の六疊でした。
「お、金太郎さんぢやないか。ちよいと待つた」
お信の部屋からスルリと出て來た、好い男の若黨を、平次は呼び留めました。
「錢形の親分、何んか御用で?」
「お孃さんに何んか用事でもあつたのか」
「なアに、用事つて程ぢやないが、ちよいと、お見舞ひにね」
若黨がお孃さんの部屋へ入るのは、武家屋敷の常識にはないことですが、見舞ひと言へば隨分筋が立たないこともありません。
「
「殿樣の聲に驚いて飛び出したくらゐだから、一と足遲かつたのだらう。口惜しいが何んにも見なかつたぞ」
「そりや惜しいことをした」
「見付けさへすれや、逃がしやしないが――」
金太郎は苦笑ひするのです。腕つ節も男つ振りも相當、何んとなく
「お隣りの石山樣と、お屋敷の殿樣は、大分仲が惡い樣子だね」
「犬と猿だね」
金太郎は
「何方が犬で、何方が猿だえ」
何時の間について來たか、後ろから八五郎が顏を出しました。今まで遠慮してお勝手に
「馬鹿つ、何んといふ口をきくのだ」
平次はあわててたしなめました。
若黨に別れて娘の部屋へ――、敷居の外から聲を掛けると、
「さア、どうぞ。お孃樣は、親分に御目に掛りたいと仰しやる」
さう言ひながら出て來たのは、三丁目の
「飛んだことでございましたな、お孃樣」
入れ
「錢形の親分さんとやら、どうぞこちらへ」
お信は滿面の
前以つて言ひ
「――」
平次は娘の
「錢形の親分さんとやら、これには深いわけがございます。どうぞ、どうぞ、何んにも訊かずに、そのまゝお歸り下さいませんか、――お願ひ」
娘は床の中でそつと
「それでは念のために伺ひませう」
「?」
「お孃樣は、御當家御殿樣の、本當のお子樣ではなかつたのですね」
平次の問ひは唐突でした。
「でも、私は
「本當の御兩親は?」
「存じません。――私はたゞ、
これは容易ならぬ打ち開け話ですが、これくらゐのことまで隱しては、平次はこの事件から手を引くとは言はなかつたでせう。
「いたし方もございません。殿樣折角のお頼みですが、私は馬鹿になつたつもりでこのまゝ歸りませう」
「――」
「でも、お孃樣、十手
「お頼み申します、平次親分さん」
娘はそれには
娘らしく小綺麗に片付いた部屋の中に、思ひの外質素ながら清げな床を敷いて休んでゐる娘の、繃帶を卷いた痛々しい姿や、生一本な調子などが、平次をすつかり押し負かしたことは言ふまでもありません。
娘の病室を出ると、平次は一應家中の人に會ひ、八五郎には近所の噂を集めさせました。娘の頼みは兎も角としてわかるものをわからずに引下がつては、平次の自尊心が許さなかつたのです。
養子の直之進は二十四五の青年で、文武兩道に秀で、部屋住みながら評判の男でした。
「私がゐさへすれば、曲者を取逃がしもしなかつたらうが、生憎所領下總へ行つた留守でな。納戸役山村要人と二人、ツイ先刻歸つたばかりだよ」
さう言ひながら、旅裝束を脱いだばかりの、
少し
遠縁から迎へられて、養子の披露は濟みましたが、當然娘のお信と一緒になるのかと思ふと、祝言は又話が別と見えて、一向にその沙汰もなく、うるさい世評の中に歳月が
いろ/\搜りも入れて見ましたが、この男は大言壯語するだけで、物の觀察などはできる柄ではなく、平次も諦らめて歸り支度をしました。
「親分。もう歸るんですか」
それを追つかけて、門の外へ八五郎。
「歸るよ。俺が踏み留つてゐても、外科の代りは、勤まらない」
平次の諦らめきつた姿は、妙に八五郎の鬪爭心を刺戟します。
「だつて、いろ/\のことがわかつたぢやありませんか。もう一と息で娘を怪我さした野郎も、お墨附を盜んだ曲者もわかるといふのに――」
「不足らしい顏をするなよ。それがわかつたところで、大した手柄にはなるまい。ところで、お前の方はどんなことがわかつたんだ」
「あの殿樣の評判は滅茶々々ですよ。領地で何遍百姓一
「そんなことだらうな。三千五百石の殿樣でも役高がないから思ひきつた取立てでもしなきや、あの大世帶は持てめえ」
平次は妙に
「それに、あのお孃さんは、養子の直之進が大嫌ひで、どうしても祝言をうんと言はないんですつて、――へツ、あの武藝自慢の
「八五郎とは大した違ひだ」
「それから
「そんな話は初耳だよ」
「本矢を射込んだのは、弓道自慢の石山一馬に違ひないと言ふんださうで、御墨附を盜んだのは、宇佐美の家を取潰すため――あの御墨附を
「そんなこともあるだらうな」
家康を神樣扱ひにした時代、お墨附
「腕自慢の若主人は留守、隨分困つたさうですよ。娘のお信さんは手負ひながら氣を揉んで、用人の正木吾平と、若黨の金太郎に頼んで、どうにかかうにか取押へたさうですが」
「――」
「おや、親分、何を
八五郎の話を
「何んでも構はない。この邊にある筈のないものを搜せ」
「へエ? これぢやありませんか、親分」
下水の中を覗いてゐた八五郎は、腐つた泥の中から、六尺くらゐの眞竹の細いのを一本ズルズルと引出しました。
「それだ、それだ」
「端つこに
「兩端がその麻糸を掛けるやうに
「へエ?」
「曲者はその丸竹で拵へた弓で、お孃さんの顏を射たのだ――いや、お孃さんを射るつもりはなかつた。殿樣を射るつもりが、首をそらされて、後ろにゐるお孃さんの頬を
「へエ? こんな竹の弓でね」
「曲者は弓が相當いけるだらう――ところで矢はどこから持ち出したのかな」
「わかりませんね。尤も、あんな本矢は武家方にはどこにでもありますよ」
「いや――こゝから一番近い
「櫻木天神樣ですよ」
「行つて見よう」
二人は足を早めました。そこからはほんの一二丁、櫻木天神の境内に入ると、先づ一と拜みして、右手の横へ。
「見ろ、あの通りだ。奉納の額に
平次は社の横、手の屆くあたりに掲げた、奉納の額を指さすのです。
「太てえ野郎ですね、神樣に納めた矢で人を射るなんざ」
「それにもワケがあるだらう。お前氣の毒だが、少し旅に出てくれないか」
「どこです。どこへでも飛んで行きますよ、
「
「それぢや、これから直ぐ――」
「待ちなよ。いくら下總でも
錢形平次ともあらうものが、かうなつては女房を質屋に走らせる外には
八五郎が下總から歸つて來たのは、それから四日目でした。
「いや、驚いたの驚かねえの」
旅の
「何を驚くんだ。宇佐美直記の評判が散々だといふ話だらう」
「それくらゐのことなら、下總まで行くに及びませんよ。それどころぢやねえ」
「何がどうしたといふのだ」
「あの宇佐美直記といふ野郎は」
「少し荒つぽいな」
「無暗な運上や借入、御用金を取立てた上、時々下總へ行つて、陣屋を根城に領内から美い女を
「ひどいことをするな――その伊之松には女房子がないのか」
「女房はそれを苦にして間もなく死んでしまひ、たつた一人殘つた伜の竹松は、二十歳を越した好い男ださうですが、江戸へ出てどこかに武家奉公してゐるさうで」
「それから」
「そんなことですよ、――でも百姓一
「よし/\、それで
「なアに、疲れもどうもしませんよ。もう一度長崎あたりまで飛んで見せませうか」
八五郎はさう言つた男だつたのです。
「それが本當なら、ちよいと頼みたいことがあるが――」
「何んです、親分」
八五郎本當に
「こいつは明日まで放つて置きたくないことだ――お前がもし大して疲れてゐなかつたら、一と走りお弓町まで行つてくれないか」
「宇佐美の屋敷へネヂ込むんでせう。かうなりや
「そんな荒つぽい話ぢやない――あの好い男の若黨――金太郎とか言つたあれをちよいと呼んで來てくれないか」
「やつて見ませう」
「萬々一嫌だと言つたら――お前は大弓場で弓の
「へエ、あの野郎ですか、丸竹の弓を使つたのは?」
「そんなことはどうでもいゝ」
「それぢや、首へ繩をつけてもつれて來ますよ」
八五郎は相變らず宙を飛びます。
八五郎と金太郎との間に、どんな掛け合ひがあつたか、金太郎と平次が、何を話したか、それはしばらく措くとして。
その晩
「平次か、その方の來るのを待つてゐたぞ。お墨附の
殿樣は待ちきれなくて、廊下まで平次を迎へに出る有樣です。
「恐れ入ります。どうやら御墨附の行方相わかりました」
「有難い、――禮を言ふぞ。誰か知らぬが、二三日前に龍の口の目安箱に、――宇佐美家の御墨附が
それはまことに重大でした。宇佐美直記が
「それについては、少しお願ひがございます」
平次は靜かにそれを押し戻します。
三千五百石の殿樣が、手でも出したいやうな恰好をしてゐるではありませんか。
「褒美の金か、それは承知してゐる。五兩か、十兩か、それとももつと欲しいといふのか――遠慮なく申せ」
五十兩とも百兩とも言はぬところに、この殿樣の特色があります。
「金は千兩萬兩積んでも、無益でございます。この御墨附を所持の者が、お孃樣、――お信樣と引換へにお渡し申上げたいと申します」
「何んと申す」
「お墨附を隱したのは、殿樣にお怨みを抱く者の
「それはならぬぞ、いづれ娘を傷つけた曲者と同腹であらう。左樣なものに、娘を任せてなるものか」
「ではお墨附はお諦めなさいますやうに。明日になれば火中されるか、
「待て/\、そんなことをされてたまるものか。安祥以來の名家が、そんなことで取潰されてなるものか」
立上がつた平次を、宇佐美直記はあわてて呼び留めました。
「お孃樣のお身體には決して間違ひはあらせません、――その上、このことは、お孃樣も内々御承知の上でございます」
「そんな馬鹿なツ」
宇佐美直記は散々腹を立てましたが、元々自分の子でないお信に對する愛着が薄かつた上に、騷ぎを聽いて驅け付けた
傷のまだ
「では、信」
「父上樣、御大事に」
金太郎の
「お墨附は御門外にてお渡し申します。御用人正木樣などお出で下されば」
眞つ先にお信をおんぶした金太郎。錢形平次はそれに續き、最後は用人の正木吾平以つての外の顏で從ひます。
それは塗り込めたやうな眞つ暗な夜でした。門を出るとそこに待つてゐたのは、人もあらうにガラツ八の八五郎。
「へツ、お孃樣、無事に鬼の
もつたいなくもこのタブー附の
この交換が無事に濟むと、一行は兎も角も明神下の平次の家まで引揚げました。そこには平次の女房のお靜が床を敷いたり湯を沸したり、お祝ひの一本をつけたりして心そゞろに待つてゐるのでした。
× × ×
お信の頬の傷が
「サア、あつしにはちつともわからねえ。宇佐美のお家騷動は一體どうしたことなんです」
八五郎は折を見て平次に繪解をせがみました。
「何んでもないぢやないか、――宇佐美の殿樣に手討になつて死んだ百姓伊之松の伜竹松といふのが、あの若黨の金太郎さ」
「へエー」
「金太郎は宇佐美直記に怨みを返すつもりでつけ
「へエ、うまくやつてやがる」
「仲がよくなると、打ち明けなくてもいゝことまでも話すだらう。そのうちにお信さんは、金太郎の
「――」
「たうとうあの晩、金太郎は丸竹の弓を
「矢は直記の喉を外れて、娘お信の顏を傷けた。
「成程ね」
「娘の身體を裏の部屋へ移して大騷動をしてゐる間に、金太郎は主人直記の無事な姿を見て、腹立
「へエ、行屆きますね」
「金太郎は宇佐美家を取潰して怨みを晴さうとしたが――宇佐美家は放つて置いても潰れる。
「へエ、親分も人が惡い」
「三千五百石のガタピシした家を取潰すよりは、好きな同士を一緒にしてやる方が
「なる程ね――道理であの二人ははたから見ると、胸が惡くなるほど
「あんなうちは、貧乏もまた樂しみさ」
錢形平次はカラカラと笑ふのでした。