オン・デマンド出版の試み

オン・デマンド出版の試み


「オン・デマンド出版」という言葉を、新聞などで時々見かけます。
この「オン・デマンド出版」というのは、いったいどういうものなのでしょうか。
わかりやすく言えば、レイアウト済みの原稿をデジタルデータとして蓄積しておき、必要に応じて、大型のコピー機に似た「オン・デマンド印刷機」で印刷して製本する方式です。必要に応じて作ることを基本としているため、大量の在庫を抱えるリスクがなく、少部数の本を発行する道をひらく方法として、注目を集めています。1997年、スウェーデンで詩人のペーテル・クルマン氏が先頭に立って始めた活動が、世界の先駆けとなりました。日本でも1999年11月、『本とコンピュータ』誌が中心となり、HONCO双書と名付けられた本格的なオン・デマンド出版の実験が開始されました。
オン・デマンド出版の最大の強みは、小回りがきくことです。実験スタートを記念して開催されたシンポジウムの会場で、クルマン氏の詩集が配られました。この本は、扉や目次を含めても36ページという、とても小さな本でした。そして、この本は、クルマン氏からインターネットで送られてきたデータを、日本で加工し、印刷、製本して作られたものだということです。いまや本は、ページ数や部数の制約から自由になり、さらに、軽く国境をとびこすこともできるようになったのです。この小さな本のありかたこそ、まさにオン・デマンド出版の醍醐味とも言えるでしょう。
多くの国が国境を接するヨーロッパでは、国境の存在が重大な意味を持つケースが多々あります。そんなとき、国境を越える本の存在は、作家たちにとって大きな希望をもたらすものとなっているに違いありません。クルマン氏の歩んできた人生も、決して平坦ではなかったようです。けれども彼は、本の未来に大きな希望を持ち、はるばる日本まで出かけてきてくれたのでした。小さな詩集の最後のページに、彼は、「私たちは孤独ではない。同じ思いを共有しているのだ」という、希望に満ちたメッセージを託しています。
日本で始まった試みが、一人でも多くの作家、一冊でも多くの本に幸福な未来をもたらすものとなることを願ってやみません。

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オン・デマンド出版の実験開始にあたって、『本とコンピュータ』編集部から、青空文庫を紹介する本を出さないかと声をかけていただき、『青空文庫へようこそ インターネット公共図書館の試み』という小さな本が、HONCO双書第一弾のラインナップに加わることになりました。
『青空文庫へようこそ』では、全体を三つに分けて、青空文庫をさまざまな角度からご紹介しています。ウェブページ上ではつかみにくい全体像を、少しでもわかりやすくお伝えすることを心がけたつもりです。おおまかな内容は、次のようになっています。

第一部 青空の本の読み方

青空文庫の成り立ちから、収録されている本のファイル形式とそれぞれの特徴、青空文庫の本を利用する際の注意事項、具体的な利用例までをご紹介しています。

第二部 青空の本の作り方

紙の本が青空の本に生まれ変わるまでのプロセスを、具体的な作業方法を中心にご紹介しています。実際の作業にあたっておられる工作員の方々、作品を提供して下さっている作家の方々の生の声も収録しました。

第三部 青空の本の未来

青空文庫がこれまでにぶつかった問題点や、これから解決していくべき課題などを、メール対談を軸にしてまとめました。

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HONCO双書には、「コンピュータは私たちの〈本のある暮らし〉をどう変えるか?」をテーマに、さまざまな切り口の本が揃っています。この機会に、お手にとってごらんいただき、ご意見やご感想をお寄せいただけましたら幸いです。

1999年12月1日
青空文庫呼びかけ人 LUNA CAT