著作権、著作隣接権の保護期間延長に反対
著作権法改正要望事項について【5.関連】
富田倫生(青空文庫呼びかけ人)
[住所、電話番号、略]
「保護期間の延長には慎重であるべき。」(107)とする立場から、著作物の公正な利用を促す上で、制約となる可能性のある、「著作権、著作隣接権の保護期間について「50年」から「70年」への延長」(106)に反対します。
著作権法の目的は第一条に、「文化の発展に寄与する」ことと示されています。
表現に関わる権利を定めてその保護をはかることと、著作物の「公正な利用の促進に留意する」ことは、法の目的を果たす上でともに欠かせない、二つの手段です。
著作権法が保護の対象とする、創作的な表現のすべては、先人の残した文化的な蓄積に育まれた人によって、生み出されます。
その表現を、まず保護して作者を支え、彼の死後一定期間を経るなどした後に公有に帰することは、著作物の本質的なあり方に即しており、社会の文化的な基礎を押し上げていく上でも、寄与するところの大きな選択です。
著作物の複製と移動に関わる費用を低減させるインターネットが、新しい社会基盤として確立された今、公正な利用を促すという、二つ目の手段によって開ける可能性は、これまでになく広がっています。
青空文庫と名付けられたインターネット上の電子図書館では、1997年秋の開館以来、延べ600人に及ぶボランティアの働きによって、公有状態にある文芸、学術作品が電子化され、利用に対価を求めずに公開されています。(2004年10月20日現在の公開作品数は、4174。)
アクセスは国内からにとどまらず、在留邦人や日本の文化に関心を持つ海外の人々、日本文学の外国人研究者などに及んでいます。
自宅のパソコンから利用できる電子化された図書館は、障碍者に、より簡便な読書機会を提供します。視覚障碍者は、文字サイズを大きく設定できる閲覧ソフトや、音声読み上げソフトを用いて、作品に触れています。
電子化された公有作品のファイルを、青空文庫は自由に再利用して良いと宣言しており、これを用いた廉価版の書籍が作られるなど、利用の裾野はパソコンの枠を越えて広がっています。
また、一定の約束事に従って作りためられたファイルは、層となって巨大な日本語の用例集を形成しつつあり、漢字の使用頻度調査などにも活用されています。
一方、国立国会図書館は、所蔵資料のうち公有状態にあるものをデジタル画像化し、「近代デジタルライブラリー」と名付けて、インターネットで公開しています。
収録作品数は、2004年10月15日現在で、35,450件、54,900冊に及んでおり、これまでは直接目にすることの難しかった貴重な資料が、世界中から、常時閲覧できるようになっています。
青空文庫や近代デジタルライブラリーにみる、公有状態にある著作物をデジタル化して公開する試みは、今後、さまざまな領域に広がって、優れた表現に触れる機会を、国の枠を越えて提供していくでしょう。
社会の文化的な基礎は、こうした体制が整うに連れて、高まっていくと期待できます。
これらの仕組みはまた、今日の表現者の創作活動を支え、明日の表現者を育む揺りかごとなることも、胸にとどめるべきでしょう。
欧米では昨今、保護期間の延長を通じて、著作物に関わる権利の強化が図られています。
ただし、権利の強化はしばしば、著作権制度という天秤のもう片側にある、公正な利用の促進を制約します。
インターネットという社会基盤を得て、著作物の公有に関わる規定は、文化の発展を押し進める、可能性に満ちた「てこ」となりました。いまここで保護期間の延長を控えれば、このてこは、強力な道具として機能することになるでしょう。
「保護期間を延長しない」という選択は、現状維持の消極的な対応ではありません。この道を選ぶことで我が国は、著作権制度の将来像をめぐる意欲的な提言を、世界に向けてなしうると考えます。
筆者:富田倫生
2004年10月20日、「著作権法改正要望事項について【5.関連】」の表題で、文化庁長官官房著作権課法規係宛、電子メール送信。
ウエッブページへの掲載:2004年12月3日
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